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福島原発15[3種類の半減期]

単に半減期というと、これは必ず「物理学的半減期」を意味する。

すなわち、放射性原子核が多数ある場合に、そのうちの半分が原子核崩壊するまでの時間のことである。

くりかえしになるが、これは原子核の種類によって、すでに決まっていて、早めることも遅くすることもできない。温めたり冷やしたりしても、化学反応させても、まったく影響されない。我々の日常生活の温度領域では、せいぜい原子核の周りを回る電子の運動が変わるくらいだし、化学反応も電子の運動や位置の変化に過ぎない。

しかし、福島第一原子力発電所の事故が発生し、内部被ばくが話題になると、にわかに「半減期」が話題となり、さらに、"まちがった説明"や"誤解を招きやすい説明"が、多く見られるようになった。しかし、それにも理由はあって、内部被ばくを心配する人たちにとっては、「物理学的半減期」はあまり重要ではなくて、「生物学的半減期」を考慮した「実効半減期」が重要に思えるからである。

ということで、半減期には3つある。その3つの違いを列挙しよう。

■物理学的半減期

単に半減期という場合は、この物理学的半減期を指す。不安定な原子核が、自発的に、より安定な原子核に変化する原子核崩壊によって、多数の原子核のうち半分が崩壊するまでの時間のことである。ヨウ素131が8日、セシウム137やストロンチウム90がだいたい30年である。(内部被ばくで話題に上がるのは、主にこの3つである)

■生物学的半減期

放射性物質に限らず、たとえば摂取した薬の成分がどのくらい体内に留まるのかを考えるときに用いられる。放射性物質が原子核崩壊して変化することを考慮せず、純粋に排泄等で体外に出ることで体内の量が半分になるまでの時間のことである。なお、薬学では薬が肝臓などで別な物質に変化させられて減少することも考慮するが、放射性物質については化学反応しても放射性は変化しないので排泄量によって決定される。なお、排泄は物質の化学的性質に依存するので、放射性かどうかは影響しない。ヨウ素が70日~150日程度、セシウムが100日程度、ストロンチウムが50年程度である。(ストロンチウムはカルシウムと化学的性質が似ているため骨に集まりやすい。よって生物学的半減期が長い)

■実効半減期

体内に摂取した放射性物質が、半分に減るまでの時間である。放射性物質は、原子核崩壊と、排泄の両方の効果で体内から減少していく。すなわち、「物理学的半減期」と「生物学的半減期」の両方によって、実効半減期は決まる。ヨウ素131が8日程度、セシウム137が100日程度、ストロンチウム90が20年程度である。

内部被ばくは、体内に留まっている放射性物質から被ばくするのだから、内部被ばくが気になる人は、「実効半減期」が気になると思う。

今の世の中を見渡すと、「生物学的半減期」と「実効半減期」を区別していないことも多い。それは、たいていの放射性物質の場合で、「物理学的半減期」と「生物学的半減期」は大きく異なるからである。

たとえば、「物理学的半減期」が何十年・何百年・何億年という長さの場合でも、「生物学的半減期」はたいてい数日や数十日、数百日だったりする。すると「物理学的半減期」よりも「生物学的半減期」が「実効半減期」を支配的に決定する。「物理学的半減期」が30年のセシウム137の「実効半減期」は100日程度だ。30年かけてゆっくり半分に減る効果は、100日程度で排泄されて体内から半分がなくなる効果に比べれば、ないも同然である。よって、セシウムの「生物学的半減期」と「実効半減期」を区別する実際上のメリットはない。

なお、逆に「物理学的半減期」が短すぎる場合(たとえば数分から数十分)、体外に排泄される間もなく、ほとんど体内で原子核崩壊してしまうので、「生物学的半減期」や「実効半減期」を考慮する必要性がない。また、そういう「物理的半減期」が短すぎる物質は、たいてい一般人の体内に到達する前にほとんどが崩壊してしまうので、そもそも内部被ばくでは話題にならないのである。

それにしても、新聞で「半減期」を説明する文章の中で、「物理学的半減期」の説明をしていたのに、最後にさっくりと「生体内での半減期はさらに短くなる」なんて書いてあったりする。まるで生命体が原子核の現象に影響を与えているかのような誤解を与えてしまう。体内に入ったところで「物理学的半減期」には一切影響はない。

ただ、「実効半減期が重要だ」という意識は、一般的には大切なのかもしれない。セシウム137の物理的半減期が30年であると聞いて恐怖心をもっている人には、特に有効だろう。セシウムの実効半減期は100日程度なのだから。でも、物理的半減期と生物的半減期と実効半減期の3つを区別しないままというのも寂しいし、因果関係で物事を考えられなくなるのも恐ろしい。

ちなみに、この3つの半減期の間には、けっこうシンプルな数式的関係がある。興味がある人は考えてみよう。

なお、厳密に測定可能な「物理的半減期」に対して、「生物学的半減期」や「実効半減期」は、動物実験や過去の人間の体内被ばくの事例から求めたものだから、かなり値のバラツキがある。セシウムの実効半減期については、文献によって100日前後でバラツキがあるが、人体の状況によってバラツキは必ずあるので、そもそも気にしても仕方ない。(たとえばヨウ素の生物学的半減期は人によって20日から200日まで異なるらしい)。1日なのか10日なのか100日なのか1000日なのか10000日なのか、そういう桁数(オーダーとかログスケール)の把握が大切である。

内部被ばくは、実効半減期で考えればよい、と言いたいところだが、話はそう簡単ではない。

なぜなら、実効半減期が短くても、物理学的半減期も短い放射性物質は、盛んに崩壊して放射線を出すので、やっかいである。(たとえばヨウ素131の実効半減期は8日と短いが、その分、短期間に放射線をたくさん出してしまう)。また、実効半減期が長く、物理学的半減期も長い物質も、長時間、地道に崩壊して放射線を出し続けるから、これもやっかいな可能性がある。(骨にたまりやすいストロンチウム90は物理学的半減期も実効半減期も30年とか20年である)。せいぜい、たとえばセシウム137は物理学的半減期が30年と長い割に実効半減期が100日程度だから、量の割には体内被ばくが小さいなとわかるくらいである。

では、結局、内部被ばくについては、どのように考えていけばよいのだろうか。

放射性物質の量は、放射性の原子の数(モル)ではなく、1秒間にどれだけ放射線を出しているか(ベクレル)で判断する。物理学的半減期が短い放射性物質は数が少なくてもベクレルは大きくなる。だから、とりあえず体内に入るベクレル量を大きくしすぎないということである。しかし、放射線の種類やエネルギーによって、人体に影響を与える度合いは大きく異なるので、ベクレルでも内部被ばくは評価しきれない。

ということで、すでに紹介したように、50年間預託実効線量で判断するしかないのである。これは、きちんと実効半減期などを考慮した値である。といっても、いちいちベクレルから内部被ばくの実効線量を計算はしていられないので、結局、暫定基準値のように、放射性物質の種類ごとに、1kgあたりのベクレルから、体内に摂取したベクレル量を考えるのがせいぜいである。これも1年間で10万ベクレルとかになって値の大きさにおどろくかもしれないが、アボガドロ数レベル(10の23乗とか)の膨大な数となる原子の世界をイメージすれば、むしろ、その程度のベクレルが人体に影響を及ぼす可能性があることに驚くべきかもしれない。

参考:
Radiation protection: a guide for scientists, regulators, and physiciansのp200あたり
(いくら古い本でもwebで本の中身が読めちゃうって、googleのやることは大胆だなぁ)
内部被ばくの評価(ATOMICA)

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