福島原発13[海水中の濃度]
3/26に、「放射性ヨウ素 海水から基準の1250倍」のような報道がなされた。福島第一原発の南放水口から南に330m離れた地点での海水から、法律で定める濃度限界の1250倍という。
ボクはこの原発事故関連の報道で気になることがある。それは、「基準値を超えたかどうか」「超えているなら何倍か」ということだけ報道して、具体的な数量に言及しないことが多いのである。判断ができなくて非常に困る。さらに基準値の根拠も不明確なことが多い。「法令上の基準」「国が定めた基準」としか書いていないことが多いのである。
この報道の元となった資料は
この元資料の15ページには、ちゃんと法令上の根拠となる告示名や放射性物質の濃度をベクレルで計測した結果が載っている。
まずは法令上の根拠を確認しよう。
「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」の第十五条第七号に
排水施設において、ろ過、蒸発、イオン交換樹脂法等による吸着、放射能の時間による減衰、多量の水による希釈等の方法によつて排水中の放射性物質の濃度をできるだけ低下させること。この場合、排水口又は排水監視設備において排水中の放射性物質の濃度を監視することにより、周辺監視区域の外側の境界における水中の放射性物質の濃度が経済産業大臣の定める濃度限度を超えないようにすること。
という規定があって、この濃度限界は
「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示」
第九条(周辺監視区域外の濃度限度)の第一号
放射性物質の種類(別表第二に掲げるものをいう。次号及び第三号において同じ。)が明らかで、かつ、一種類である場合にあっては、別表第二の第一欄に掲げる放射性物質の種類に応じて、空気中の濃度については第五欄、水中の濃度については第六欄に掲げる濃度ということで
別表第二(周辺監視区域外の空気中の濃度限度、周辺監視区域外の水中の濃度限度)
で定められている。
なんか、この長ったらしい法令名とか見ると、もうバックスラッシュや\を使ってフォルダ構造で示した方がわかりやすいんじゃないだろうか、とさえ思う。
しかし、この別表第二が、web上で見つけるのが非常に大変である。結論からいえば、今のボクは見つけることに失敗した。告示の本文自体は見つけられるのだが(しかし所管省である経済産業省の検索システムでは見つけられない)、別表第二はなんだか見つけられない。明確な法令ならe-Govで見つけられるが、法令の性格をもっているだけの告示は、最近の改正などは簡単にweb上で見られても、告示本体は見つけにくいようだ。印刷された官報を読めというのか、この時代に!
しかたないので、原子力安全・保安院の現地モニタリング情報の表の濃度限界値を信じることにする。
さて、3/26の現地モニタリング情報の15ページの表をみると
告示のヨウ素131での濃度限界値は4E-02と書いてある。これがもう一般人が見るには敷居が高すぎる。表の下の方にさりげなく意味は書いてある。4E-02は、4×10のマイナス2乗ということで、0.04のことである。ちなみに、Eとはexponential notation(指数表記)のEである。上付き文字で何乗か書くことが面倒な電卓やパソコン等で、よく使われる表記である。
さて、濃度限界値は0.04Bq/cm3ということで、海水1リットルはたぶん1kgより数%重いんだろうけど、面倒なので1リットル(1000cm3)で1kgとすれば、濃度限界値は40Bq/kgとなる。ちなみに水道水の暫定基準値は300Bq/kgだ。この濃度限界値がどのように決まったか、までは調べがついていないが、水道水の暫定基準値の1/10程度という感覚は、理解を助けてくれる。
で、3/25に採取された水の値が50Bq/cm3だから、50000Bq/kgとなる。これは確かに猛烈な数値である。
こんな大量のヨウ素131がどこから来てるか、ということだが、ヨウ素131の半減期がわずか8日なので、核分裂の臨界を終えて時間の経過した使用済み燃料棒から、こんなにも大量のヨウ素131が出るとは思えない。(もし使用済み燃料棒から出たのなら他の放射性物質の濃度がもっと高いはず)。
・原子炉の中の燃料棒が破損していること
・原子炉本体か配管のどこかが破損して水が出ていること
・原子炉から出た水が海に流れ出ていること
は確実に思われる。
なお、空気中の放射線量は福島第一原発敷地内の値や周辺の値が低下し続けているので、水経由の漏れが防げれば、かなり環境への影響は下がりそうだ。原子炉から出た水は、敷地内の核燃料処理施設に吸い出して封印し、これ以上原子炉から出てこないような方策が必要だ。もちろん、言われなくても東京電力はやろうとしている。そのためにも、原子炉の安定的な冷却が最優先である。もし冷却できず原子炉の温度が上昇して圧力も上昇したら、原子炉を守るために再び原子炉から水蒸気を出さなければいけなくなる。すると広範囲で放射線量が増えて再び社会的混乱の元となる。(漁業関係者にとっては、海水中の放射性物質濃度が高くなる方が深刻だろうが)
今回明らかになった事実によって、被災地周辺の農業、酪農業に続いて、漁業も打撃を受けることは確実である。被災して、その上なおこのような長期的な悪影響が出ることを見せつけられた被災者の方々は、未来への想いを築くのに大変なご苦労があるはずである。ボクはとても「がんばれ」とは言えない。せめて、今の不便な生活が、少しでもマシになるよう、自分にできることを少しだけでもやっていきたい。
なお、ボクは、今回の原発事故発生から連日、原子力安全・保安院の発表をweb上で見守っているのだが、内容は確かに日に日に充実しているが、完全に事務処理能力をこえているのが気になる。
まずPDFファイルなのだが、どうやら紙資料にページ数を手書きで書きこんで、スキャナーで取り込んでwebにアップしているようである。だから、スキャンするときに紙がゆがんだり、あるいは元の紙資料の印刷がゆがんだときは、そのままアップされている。
以前にも書いたが、もっとも大切なことは、情報を迅速に公開することである。だから、体裁にこだわって公開が遅くなるくらいだったら、紙資料のスキャンだろうが、手書きの資料だろうが、何でもいい。でも、紙にページをふってスキャンしてPDF化する時間や労力も、毎日毎日のこととなったら、けっこう大変じゃなかろうか。せめて紙を自動でスキャナーに送り込むシートフィーダがあると思いたい。もしスキャナで20枚以上を1枚1枚スキャンしていたら、貴重な人的パワー(仕事率)の損失である。
元の資料はどう考えてもデジタル的に作られている。よもや今時ワープロ機ではないだろうから、元となったデジタル資料をそのままPDF化する仕組みは、組織上ないんだろうか。そうすればPDF上で検索をかけることもできるし。(今は当然検索できない。プライベートならスキャンした書類の文字をOCRソフトで読み取ってデジタル化したりすることが多いが、不正確なデジタル化は公的機関はできないだろうし余計に時間がかかる。自分たちの組織で作った書類なのだから元のデジタル資料をPDF化すればよいはずである)
今回の海水中の濃度についても、3/25の8:30に採取したサンプルの値が、3/26の18:30に発表された。発表のタイミングもあるのだろうが、34時間もタイムラグがあるというのは問題である。事務処理が円滑になれば、原子力安全・保安院の職員も報道陣も、そして一般の人々も、間違いなくメリットがある。事務処理やそれに対応するマンパワーについて、日本社会はもっともっと大切にした方がいい。
原子力安全・保安院って、何人くらいの組織なんだろう。採用情報に、今は1年に8~9人の募集って書いてあるから、全国でせいぜい数百人か。地震後2週間が経過しても、事務的能力の限界を突破し続けているようにしか思えない。書類をつくっている原子力安全広報課の人たちが、効率よく働ける環境であることを願っている。
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